黒子のバスケLAST GAMEを噛みしめてみた

 マンガもゲームもアニメも好きだけど、それ以上に重度の映画(特に邦画)ヲタクである自分にとって、アニメ映画は実のところ死ぬほど苦手を通り超えてトラウマレベルでした。人気キャラの無駄なカットイン、物語の本筋に関係のない人物たちの『一方その頃』的描写、唐突なサービスシーン…いわゆるファンサービスが異様に鼻に付く。製作者のいわゆる「ほれ、オタクはこれが好きだろ?ほれほれ!」っていうニヤついた顔が浮かんでしまい鳥肌と吐き気を催しつつも『劇場版にて完結!』とか謳うもんだから一応最後まで観ますよ。観ますけどそんな無駄テイクを挟むから本筋へ尺が割けずに展開がぐだぐだ。そして唐突なご都合展開にチープなお涙ちょうだい。これを実写映画でやったら総叩きなのに、オタクの友人らは「そこがいい!」と拍手喝采する。

 もともとアニメが好きな人たちが映画を見るんだ、そりゃ批判する人は少数派でしょう。それでも映画を沢山見てきた結果の感覚のずれなのか、私が『アニメ映画はそういうもの』として見れない石頭野郎なせいなのか、単純に好みの問題なのかは分からないけれど、少なくともこれまでテレビアニメの劇場版といった類を何作品も見ては打ちのめされてきた自分にとって、黒バスの映画化というのはとんでもない絶望でした。しかも「描き下ろしシナリオ」とかいう地雷付き。みんなだって「原作とは違うラスト!」って銘打たれた人気コミックの実写映画って嫌でしょ?基本的にはそれと同じ感覚です。原作者が総監督した結果当たった映画も確かにありますが、映画という枠への理解が乏しい原作者が変に口を出した結果、ファンサ要素盛り盛りにした結果話の筋が通らずとんでもない壊滅的作品に…といったものも数知れず。タイトルは言いませんけど。

 そんなわけで内心ハードル下げ下げ状態で観てきましたよLAST GAME。ファンが「映画滅茶苦茶よかった~」ってSNSに書き込むのは予想出来ていたし、そんな前評判なんかで絶対にハードル上げたかなかったので初日初回上映で観てきました。

 

まさか、こんなに号泣するとは思わなんだ。

 

 年間150~200本ほど映画を観る中で泣ける映画は片手で数えられる程度という状態がもう何年も続いていたので、泣いてしまった自分に衝撃を受けたのはここだけの話。なんだこれ…こんな王道少年漫画展開でこんなに熱くなれて、かつ原作者の追加エピソードが入ることで『LAST GAME』というタイトルにふさわしい締めくくり。寂しくて涙が出るけど希望に満ち溢れた終わり方。サイコーじゃねぇか…!!

 話のあらすじとしては、アメリカから来た強敵を倒す為、これまで敵同士だった奴らがドリームチームを組むという王道中の王道。大筋としての展開は決して目新しいものはないし、テニプリほどではないにせよ超人的プレーも飛び出し、二重人格の子がいたり、未来を見通せる敵がいたり、ザ・少年ジャンプ的なほどよく厨二な世界観にはに引っ掛かりを覚える人もいるのかもしれないですね。…こう書くと「お前は原作が好きだから泣いたんだろう!」と思われるかもしれないし、その意見は確かにごもっとも。けれど、『LAST GAME』は何故こうまで私の心を揺さぶったのかと考えた時、極限までファンサという名のぜい肉を取り除いた結果、映画としての骨格が美しくあれた、ということなんだと思ったわけです。

 「黒子のバスケ」は、主人公の黒子テツヤが中学時代のチームメイトで5人の天才バスケプレイヤー・キセキの世代の歪んだ根性を叩きのめす為に、高校で知り合った火神大我と共にバスケで全国優勝を目指す…といった感じのスポーツ青春物語(詳しくはググってくれ)。つまるところ主人公の黒子と火神、そしてキセキの世代が軸となってドラマは展開していくわけですが、キセキの世代が成長できるのは勿論黒子だけの力だけではなく、それぞれが進学した先にいる先輩や同級生の影響が大きく、各校のエピソードがまたジーンとくるわけで。つまり何が言いたいかというと、キセキ以外の先輩や同級生キャラも人気も高い。

 「LAST GAME」の始まりは、そんな先輩方で結成されたチーム・Starkyが米強豪チーム・ジャバウォックに試合でボッコボコにされるところから始まります。あの衝撃的な幕開けは、マンガ版が掲載された当時ファンの中ではちょっとした騒動になりましたね。みんな大好きな頼れる先輩方の公開処刑はあまりにも辛すぎた……。だけどその辛い気持ちがあるからこそキセキの世代は一夜限りのドリームチーム・ヴォーパルソーズを結成してジャバウォックに立ち向かうわけで、物語の流れとしては必要だったわけです。分かってても辛かったけど。

 そしてここからが「LAST GAME」の面白い話なんですが、試合が終わった後、Starkyのメンバーは回想シーンを除くと一度も出てこないんです。試合会場にも来なけりゃどこかで見守っているといった描写もゼロ。更に言えば、それ以外のキャラクターも描写は殆どありません。キセキの世代の先輩や同輩も一部は会場に駆けつけていますがあくまで解説要因。ベンチメンバーですら試合に出ることは1度としてありません。ここがね、「LAST GAME」のすごい所だと思うんですよ。ファンの多い「黒バス」ですがキセキ以外のキャラクターのファンだって山のようにいて、私に至っては何故か花宮真とかいうゲスが好きなわけですが、花宮は1カットも出番はなく。ちなみに原作の「EXTRA GAME」には1コマだけ登場してるのですが、そこはばっさりカット。けど、嫌って訳じゃない…それが映画の為なら…!

 先輩方や他校生の観戦シーンがより多く入ったと仮定しましょう。もちろんファンにとっては嬉しいことでしょうね。でも、それを入れることによって何が起こるかというと、試合シーンが縮小され、また試合シーンに100%集中していた私の意識が「あっ、花宮真!」って一瞬あらぬ方向に行ってしまうわけですよ。ゾーンが解けちゃう。おのれ花宮。先ほども言った通り「LAST GAME」の2/3は試合ですが、試合の描写において限りなく無駄が省かれてヴォーパルソーズの成長にだけ焦点があてられているからこそ、あの試合を集中して見ることができたんだと思っています。この、ぜい肉をそぎ落とす作業がアニメ映画は下手くそだと常々思っていたからこそ、「LAST GAME」には驚かされました。描きたいものだけきっちり描いて、伝えたいものだけを前面に押し出す。理屈はシンプルなんですが、これが意外と難しいんでしょうね。

 そうすることによって存分に尺を取った試合シーンでは、各キャラクターの成長がきっちり描かれていました。黄瀬の決断や紫原の成長、2人赤司の決別など大きな部分から、青峰と紫原がハイタッチしたり緑間が火神に声を掛けたりといった細かな変化まで、それこそ存分に。ストイックにあればこその贅沢な90分を作ってくれたスタッフ、監督、そして総監督の藤巻先生には感謝しかありません。ありがとう黒バス、ありがとうラスゲ。黒バスファンで本当によかった。劇中で一番好きなキャラはと聞かれたら敵役に徹してくれたナッシュ・ゴールド・Jrと答えますけど。